パソコン絵画を始めるにあたって

 

パソコン絵画の準備


 さて、今まで読んできて、パソコン絵画にちょっと興味を持ち始めた方、あるいは自分も始めてみようかなという方、ここから先は、パソコン絵画を始めるための準備編です。ただ、準備といっても別に大変なことはありません。準備が簡単というのがパソコン絵画の取り柄です。

 まずは必要な道具の話ですが、簡単なイラストならともかく、風景画、人物画、静物画などを本格的に描こうと思えば、マウスで入力というのはしんどいものがあります。やはり、鉛筆や筆を持つような感じで入力できないと、うまく描けません。これを可能にしてくれるのが、タブレットと呼ばれるペン型入力装置です。これは、四角いお盆のようなプラスチックの板とペンとがセットになったもの(下の写真参照)で、板の上でペンを走らせるとパソコン画面でその通りに線が引けたり、色が塗れたりします。当然のことながら、これは画材店ではなく、パソコン・ショップで売られています。パソコンで絵を描くうえで、タブレットは何よりも重要な道具だと思います。極論すれば、市販の立派なお絵描きソフトは要りませんが、絵を描く以上、タブレットは必要です。タブレットは大きさや性能によって値段がかなり違ってきます。ちょっと試しにということなら、普及型のものでも充分だと思います。


ワコム社(Wacom)のタブレット「インテュオス( Intuos)」
私がパソコンで絵を描くために使っているのはこのタイプのもの。読取可能範囲(白く光っている部分)はA5サイズ。この程度ないと、細かい描写がしにくい。右横のペンで描く。



 さて、ソフトですが、これはピンキリです。一番簡単なのはWindows付属の「ペイント」(「プログラム」→「アクセサリー」と開けばあります)ですが、もっと高機能な無料ソフトも巷で利用されています。他方、プロが使っているような高価なものは10万円近くしますが、本当に趣味として続けるかどうか分からないなら、いきなり高価なソフトを買う必要はなく、まずは無料ソフトで試し描きしたり、市販ソフトのお試し版を使ってみるということでしょうか。特に、既に油絵なり水彩画なりを趣味でやっている人は、自分なりの表現技法はある程度確立しているわけですから、どのソフトを使っても、それなりの絵は描けるはずです。「私はプロ並みの力量があるからプロが使っている高級ソフトでなければ」といった短絡的な思考は止めた方がいいでしょう。高級ソフトは、プロが面倒な手間を省きながら短時間で作品を仕上げて締切りに間に合わせるためにあると、私は割り切っています(高級ソフトを持っていない私の負け惜しみかもしれませんが)。参考までに、私がWindows付属の「ペイント」という、最も原始的なお絵描きソフトを使って、タブレットで描いた絵を下に掲げておきます。


 

タブレットさえあれば、わざわざソフトを買わなくともこの程度の絵を描くことが出来るという見本です。もっとも、何も練習せずにすぐ描けるようになるわけではないですから、念のため。






パソコン絵画の描き方


 パソコン絵画にこれといった作法はありません。我々はプロの画家ではないのですから、楽しみながら自分のスタイルで自由に描けばいいわけです。まぁ、そうは言ってもそれだけでは愛想もないので、以下参考までに、私流の簡単な手順を描いておきます。

 なお、ここでは、具体的なソフトの使い方や実例に沿った絵の描き方(いわゆるチュートリアル)まで掲載していませんが、色々なお絵描きソフトごとに、販売元やユーザーがホームページでそうした解説を載せていることが多いですから、使おうと思っておられるソフトの販売元ホームページやユーザーのホームページを検索してみて下さい。



着想(モチーフ探し)

 どんな絵でも、まずは構想を練る必要があります。構想といってもそんな難しいものではなく、何を描くかという問題と、それをどういうふうなイメージで描くかという問題です。絵を趣味にしている人にとっては、こうしたことを考える時間は、ある意味で至福の時間ではないでしょうか。ゆったりした気分でコーヒーでも飲みながら次の絵の構想を練るのは贅沢なものです。実際描き始めたら思い通りに行かなくて苦しむことが多いですから、まぁ考えているうちが花かもしれません・・・。

 何を描くかは全く自由ですが、我々アマチュアにとって絵は所詮趣味なので、他人の受けなど狙わず、あくまで描きたいものを描くという姿勢が重要です。例えば、虫が好きなら虫を描き続けるというのでもいいわけです。「芸術は高尚なものだから、絵のテーマも高尚なものでなければ」などと考えるのは、これから趣味で絵を始めようとする者にとって、百害あって一利なしです。そんなふうに自分を縛ると、そのうち行き詰まります。最初は、子供時代を思い出しながら塗り絵をするので十分です。高尚な絵は、色々描いているうちに高尚な気分になったら、そのときに描けばいいのです。我々は、描いた絵を評論家から評価してもらう必要も、画商に高く買い取ってもらう必要もありません。ここがアマチュアの強みです。

 何を描くか考えるという点では、実際に描いてみたい風景や対象物をスケッチなどに取るのも1つの手でしょう。スケッチについては、手書きで描く方法のほか、写真を撮る方法もあります。私は、頭の中で描いたものをそのまま絵に描いていくことが多いのですが、これから絵を始める人はそういうわけにもいかないでしょうから、現実の風景や対象物を参考に絵を描いていった方が、作業が進めやすいと思います。スケッチを取ると絵の練習になりますが、忙しい現代人にとっては写真の方が楽でしょう。絵画を趣味とする人の中でも正統派を自認する人は「スケッチの代りに写真を使うのは邪道」みたいな意識をお持ちの方もおられると思いますが、忙しい現代においては、のんびりスケッチブックを開いていられないことも多々ありますし、そうしたことを許さない場所というのもあります。パソコン絵画に流儀も作法もありません。必要ならどんどん写真を撮って代用しましょう。


 ただ、スケッチ代わりに写真を撮られる場合、一点留意しておかれた方が良いのは、漫然とシャッターを切るのではなく、絵を描くつもりで構図を考えながら写真を撮ることと、1枚だけでなく何枚か撮っておくということです。手書きのスケッチの場合は、絵にした時に細部を描き込みそうな部分をフォーカスして描いたり出来ますが、写真はレンズが漫然と全体を撮るだけなので、あとで現像してみると、まさに絵に描こうとする肝心の部分が、うまく捉えられていないという悲劇が起こり得ます。人間の目というのは良く出来ていて、見たい部分に焦点を合わせて物事を捉えます。しかし、カメラは機械ですから、画面にある全てのものを平等に扱ってフラットにフィルムに焼き付けます。目で捉えられていたものが写真には写っていなかったなんてことはよくあることです。こうして見ると、絵を描く準備と言う観点からは、手書きのスケッチの方が優れた記録手段だと思います。従って、もし写真を撮られるなら、あとで泣きを見ないように、何枚か、色々な角度から、あるいは一部ズームなどして撮られることをお勧めします。

 どういうイメージで描くかについては、構図をどうするか、色合いをどうするか、タッチをどうするか、といったことを考えることになります。構図については、スケッチや写真があると、その通りに描こうとしがちですが、そんな必要はありませんし、むしろ余分だと思われるものは画面から消していった方がよいことがあります。絵画というのは、写真ではないのですから正確性は求められません。要は、絵画というのは現実の光景から美だけをつむぎ出すようなものですから、不純物はいらないのです。

 もう1つ肝に銘じておいてほしいのは、「上手い絵」を描こうと過度に意識しないことです。確かに下手な絵よりも上手い絵の方がいいと思いますが、そればかりを目指すと絵が詰まらなくなります。「上手い絵」が心に残るかというと、そんなことはありません。どこか味のある絵の方が、いつまでたっても心に残っていたりします。



設 定

 油絵や水彩画で、まず描く絵の大きさ、言い換えればキャンバスや水彩画紙の大きさを考えることになりますが、パソコン絵画でも同じように絵の設定を考えなければなりません。パソコン絵画は、色のついた点の集合で形成されており、その各々の点を「ピクセル」と呼んでいます。従って、絵の大きさを設定する際には、一般的にはピクセルの数で設定します。これは、色のついた箱を何個並べるかを決める、といったイメージです。1つの箱には1つの色しか入りません。例えば、このホームページに掲載している私の絵は、縦が約800ピクセル、横が約1000ピクセル程度に設定しているものが多いのですが、これは、合計80万個(800×1000)の箱を、縦に800個、横に1000個並べているという感じです。

 
設定の際に考慮すべきは、1つはどこまで細かい絵を描くかという点、もう1つは、完成した絵をプリンターで打出して額に入れるつもりなのかということです。

 細密描写をするなら、ある程度大きな画面に設定して絵を描き始める必要があります。そうしないと、上記の「1ピクセルに1色しか入らない」という制限にぶつかって、細かい描き込みが出来なくなります。まぁ、この辺りは自分で試して感じを掴むしかありませんから、自分の絵のタッチを考えながら幾つか試作してみて下さい。ただ、1つ申し上げておけば、絵の設定は大きければいいというわけではないということです。画面が大きいということは、それだけファイルの容量が大きくメモリーを食うということを意味します。大きな画面設定にしてどんどん描き進んでいくと、そのうちメモリーが足りなくなり、スワップ・メモリーが発動され、筆の運びが極端に遅くなります。気を付けて下さい。

 もう1点の、自分の絵をプリンターで打ち出すための設定の仕方ですが、これは各人のプリンターの性能にもよりますので、自分で試してみるしかありません。特に、印刷する紙の質やプリンターの印刷設定の違いで、打ち出された絵の色合いが大きく変わる可能性があります。幾つかケース分けして実験してみた方がよいでしょう。


下描き

 下描きは、絵の骨組みを決める重要なものですが、パソコン絵画の場合、2つのやり方があります。1つは、タブレットを使って、直接パソコン画面に下描き線を描く方法です。私はいつもこの方式です。もう1つは、紙に鉛筆やサインペンで線描きして、それをスキャナで取り込む方式です。後者の1方式として、写真を下書きとしてそのまま取り込むことも出来ます。ただ、上でも申し上げましたが、写真の取込みをした場合、過度にそれに依存しないようにしないと、余分なものまで沢山描き入れることになります。気が付くと、写真と寸分変わらず全く同じに描いていて、何のために絵を描いているのか分からなくなる場合があります。


制 作

 下描きが終われば、いよいよ本格的な絵画制作となるわけです。

 この段階では、既に構図は出来て下線が画面に入っているはずですから、どう色を塗っていくのかがメインテーマとなります。ここで考えておかなければならないのは、強いインパクトのある配色で構成したいのか、淡いタッチの仕上がりにしたいのかといった問題のほか、画面を支配する色をどういう系統の色にしたいのか、といったようなことです。強い色でインパクトのある絵を描く場合には、同じ程度の強さの色を何色も画面に取り込んで焦点が定まらなくなるとか、補色(反対色)を大胆に使って目がチカチカする、といったことを避ける必要があります。淡い配色で画面をまとめる場合には、画面全体がボケて何が描いてあるのか分からない、といったことにならないように配慮しなければなりません。もう1点の、画面を支配する色に関してですが、春をテーマに重く冷たい色で描くといったことは、何も言われなくとも初心者でも避けると思います。しかし、メインになる色と脇役になる色の関係というのは、意外と配慮がおろそかになりがちです。これを上手く組み合わせないと、画面構成上メインになる色が活きません。色というのは、その周りにある他の色との相対で人間の脳に飛び込んできます。同じ色でも、周囲の引き立て役の色が上手く合っていれば輝いて見えますが、組み合わせに問題があると、メイン色が死んでしまいます。色々組み合わせを試して、自分なりの色使いを研究してみて下さい。

 色の乗せ方としては、だいたいの色を荒く乗せて、全体の色バランスを見て調整したうえで、細部を書き込んでいく方法が無難でしょう。色を調整するのに、幾つかの部分に分割して別レイヤーにしておくと便利です。レイヤーというのは、透明なシートのようなもので、その上に絵を描きます。レイヤーは何層にも重ねることが出来、全体の絵はこれら全てのレイヤーを重ねたうえで、通しで見る形になります。丁度アニメのセルのようなものです。油絵や水彩画では絶対にあり得ない便利な道具で、そうした意味では、レイヤー機能を持ったお絵描きソフトの方がいいでしょう。無料のお絵描きソフトの中にもレイヤー機能を持つものがあります。ただ、余りレイヤーを作りすぎると、ファイル容量が増えてメモリーを食い、時としてスワップ・メモリーの発動につながります。注意して下さい。

  ところで、実際に制作するに当たって、どの程度お絵描きソフトの機能を覚えていかなければならないのでしょうか。これも人によって千差万別ですが、私の場合は、使用している Paint Shop Pro というソフトの機能のほんの僅かしか使っていません。いまだに使用したことのない機能も沢山あります。イラストや絵を描く機能に特化した一部のソフトを除くと、ポピュラーな普及版お絵描きソフト(Paint Shop Pro もこれに当たると思います)には、デジタル写真のレタッチやホームページ用のロゴ作りのための機能が豊富に盛り込まれています。こうした機能は、絵を描く際には余り使いません。従って、買ったソフトの機能を片っ端から勉強する必要はありません。
分厚い取扱説明書を端から読もうとして挫折することのないようにして下さい。

 では、絵を描く際によく習得しておいた方がよいソフトの機能とは何でしょうか。私は、ブラシの詳細設定の仕方ではないかと思います。私自身、相当頻繁にブラシの形状や透明度、密度などを変えます。平均5分に1度はチェックして変えているような気がしますし、気に入ったタッチが出るように何種類か筆先を自作(いわゆるカスタムブラシというやつです)しています。油絵や水彩画、日本画などは筆に相当気を使います。パソコン絵画だって、それと同じことです。



完 成

絵を完成させるのには、思い切りが必要です。自分で描いていて中々満足できず、ダラダラと描き続けるということがあると思います。特に、完璧を期すことにこだわる人が、こうした描き方に陥りがちです。しかし、これを続けていけば必ず満足する絵になるという保証はありませんし、描き込めば描き込むほど、思っていたのとは違う方向に進むこともあります。そういう場合には、ある時点で「この絵はもう完成したことにしよう」と区切りを付けて、その作品が不満足な出来なら、また別の絵に取り組み始めた方が、よい結果が得られることが往々にしてあります。こうしたことはパソコン絵画のみならず、油絵など一般の絵画でも起こり得ることです。私の場合、通常の絵であれば、画印(絵に押す印鑑)やサインを入れることにより入筆打ち止めにしています。パソコン絵画についても同様の手法を取り入れ、サインを入れるかパソコン上で作った画印を入れたうえで、プリンターに打ち出して額に入れることで「完成」としています。なお、このホームページの絵に画印やサインが入っていないのは、プリンターに打ち出す絵にしか画印やサインをいれないという私の流儀に基づくもので、別に未完成品を掲載しているわけではありません。

 なお、完成した絵を印刷して額に入れるかどうかは各人の自由ですが、私は、何枚かのパソコン絵画をプリンターで打ち出して額に入れ、他のアクリル画や水彩画とともにリビングルームなどに飾っています。何も知らない人は、すっかり手書きの絵だと思っているようで、こちらがパソコンで描いたと説明しても信じない人もいます。こうして壁に飾っておけば立派なインテリアになりますし、人の家に招かれて行った際に1枚手土産替わりに持参すると喜ばれます。壁に飾る前提で描けば気合も入りますし、皆さんも一度試されては如何でしょうか。




画印を入れて、プリンターでA4用紙に打ち出したパソコン絵画 プリンターで打ち出したパソコン絵画を水彩額(「八切りサイズ」のもの)に入れた状態。これで壁に飾ると、肉筆画と変わらない。


  

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