絵を描くうえでヒントになるようなことを、いくつか挙げておきます。
絵を描くのうえで大切なのは、描こうとする対象(風景、静物、人物など)をよく観察することです。
人間の記憶というのは偉大なもので、自分で意識していなくても物をかなりよく観察して記憶しています。よく、部屋の中の物の配置が変わっていると、何が変わっているかは指摘できなくとも、何か違うと感じたりしますね。あれです。しかし残念ながら、その無意識の記憶は、はっきり意識のうえには上ってこないわけです。
絵を描いていても同じことがおきます。対象となるものをよく観察せずに想像で描くと、実際の風景や物と違ってしまったりします。例えば、よく澄み切った青空でも、青いのは上の方だけで、地平線に近くなると薄い青からほとんど白になったりします。脳はこれを無意識のうちに覚えているわけです。しかし、よく見ずに、空を一面青く塗ってしまうと、のっぺりとして何だか立看板が背後にあるような雰囲気になってしまいます。このとき、脳が「この絵は何かおかしい」と教えるわけです。しかし、意識の上には何がおかしいのか上ってこないので、「どうも上手く絵が描けない」と思い悩むはめになります。
これを解決するためには、物をよく観察する目を養うしかありません。絵の上手い人は、スケッチのときによく頭が動くといいます。要するに頻繁に対象を見ながら筆を運んでいるのです。そういう意味では、下書きがてらスケッチするのと写真を撮るのとでは、意味が違ってくるわけです。
また、ものをよく見るくせをつけておくと、絵を描いていないときでも、色々なものをよく観察するようになります。駅で電車を待っている間に町並みを見て絵を描くならどういうふうに描くのかを考えたり、通勤通学途上の街路樹を見て枝の張り方や葉の付き方をしげしげ見たり。こういう態度が自然に身に付くと、絵を実際描いていくうえで、結構な財産となります。俗にいう「絵心」というのは、こうした習慣の延長線上にあるような気がします。
パソコンで絵を描く場合、使っているお絵描きソフトの解説本をバイブルみたいに読むようになっていませんか。確かに解説本は便利ですが、あれはソフトの使い方を解説してあるだけで、実際の絵の描き方そのものを説明してはいません。絵の描き方を解説してある本もありますが、絵を描く上で役に立ちそうなソフトの機能を紹介することが主眼です。そこでは、構図をどう取ればバランスがいいかとか、見る者の視点を画面のどこにどうやって集中させるか、色のバランスの取り方や表現技法といったことは、ほとんど扱っていません。こうしたことは、ソフトの解説書が扱う分野ではなく、絵画の教本の守備範囲なわけです。で、あれば、一度くらいは絵画の教本(入門書の類)には目を通しておくことをお勧めします。
かといって、難しい本を読めといっているわけではありません。とっつきやすい図版中心のもので結構です。そこで、油絵画家や日本画家、水彩画家といった人が、どういうプロセスを経て絵を描いて行くのかを眺めるだけでも、結構勉強になるはずです。立ち読みで結構ですから(本屋さん、ごめんなさい)、一度試してみてください。思わぬ発見があるかもしれません。
私のようにもともと趣味で絵を描いていた人は別にして、学校の美術の授業以来絵を描くのは久し振りという人にとって、お絵描きソフトを使って何をどう描けばいいのか、最初は色々思い悩まれることと思います。幾ら自己流でいいとはいえ、さて正式に自分の作品を描こうとすると、画面を見つめたままウーンとうなるばかりという人もおられるかもしれません。そういう方には、一つの刺激として、一度誰かの作品をそっくりそのまま真似て描いてみることをお勧めします。
この文章の見出しに使った「まねぶ」というのは古語ですが、漢字としては「学ぶ」と書きます。この「まねぶ」という言葉には、現在一般に使われている「勉強する」「自分を磨く」といった意味のほか、「他人をまねる」という意味も入っています。つまり、「まねる」のも「まなぶ」のも、昔はさほど区別がなかったわけですね。確かに、昔は学校がありませんから、学ぶといっても、師匠や先達のまねをしながら手探りで自分を磨いていくしかなかったわけです。「芸を盗む」「匠の技を盗む」なんていうのも、同じ発想です。これを、絵画に当てはめると「模写」ということになります。
「模写」は、今でも絵画技術を磨くうえで1つの方法だと思います。実際にやるとなると面倒臭いので私はやったことがありませんが(自分でやってなくて勧めるのもやや無責任ですが…)、仮にあなたが自分なりに技量や表現力の点で壁にぶちあたっているのなら、一度試す価値はあると思います。仮に得るものがなかったとしても、お絵描きソフトを使った暇つぶしにはなります。
「模写」をやるうえでの留意点を申し上げておくと、余り高度な絵の模写はやらないということです。何より疲れるし、途中で挫折する可能性が高いからです。従って、幾ら気に入っていても、いきなり「ナポレオンの戴冠」とか「洛中洛外図屏風」とかを模写するのはやめた方が無難です。
もう1つ申し上げておけば、模写するなら、元になる絵自体をスキャナーなどでパソコンに取り込んで下絵にしたりせず、図版そのものを手元で見ながら描くことをお勧めします。そうすると、あなたが余程の練達でない限り、間違いなく構図の取り方や色の使い方について試行錯誤することになります。まさにそれが勉強になるわけです。パソコンに下絵として取り込んだりしたら、完全に「なぞり絵」になってしまって、あまり得るものがないと思います。
最後に一言。そうして描いた模写作品は、自分のホームページに掲げないこと。知的所有権侵害になるおそれがありますから、お気を付け下さい。
昔から天才芸術家は孤独と言いますが、そうはいってもその天才を理解する友は常にいました。精神を病んだゴッホにさえ、ゴーギャンという友達がいました(最後はダメになりましたが…)。絵を描いていると、時として行き詰まったり、自分の絵の客観的評価が分からなくなって、悩んだりすることもあると思います。そういうとき、同じように絵を描くことを趣味にしている仲間がいたら、何かと助けになります。自分の絵を見せて批評してもらうこともできますし、何気ない絵画談義の中からヒントが得られることもあります。
望むらくは、自分より技量が上の人と付き合った方が得るものも大きいのですが、皆そう思っていますから、これは中々難しいかもしれません。ただ、出来ることなら、同じような絵を目指している人(花の絵が好きなら花の絵を描いている人)がいいと思います。人物画ばかり描いている人と静物画談義をしても話題が弾みません。あと、ひたすら絵を褒めてくれる友達というのも心地良いものですが、出来れば建設的な批評を寄せてくれる人の方が得るものは大きいような気がします。批評というのをどう受け止めるかは人それぞれです。全く無視して我が道を行くという人もいれば、素直に取り込む人もいます。所詮趣味で絵を描いているのですから、批評を余り気にする必要はありませんが、意外なヒントが隠れたりしていることもありますから、最初から無視してかかるのはもったいない気がします。
1枚の絵が完成するまでに必要な時間というのは各人まちまちです。私の場合はかなり筆が速く、このホームページに掲載している絵は、長いものでも4時間程度で仕上げていますし、習作の類だと描き始めから完成までの時間が1時間を切っているものもあります。
ゆっくり描こうが速く描こうが各人の自由ですが、自分の絵を描く速度を考えて、自分なりの制作プロセスをよく練っておいた方が良いと思います。
まず速筆の場合ですが、必ず作業を2日に分けた方が良いと思います。理由は、新たな目で作品を見るというプロセスが必要なためです。一気に描き上げてこれで完成と思っても、翌日見ると修正した方がよいと思われる個所が出て来たりします(出てこないことも勿論ありますが)。従って、興が乗って一気に描き上げても、最後の仕上げ的に翌日もう一度見てみるというクセを付けることが必要です。
次に遅筆の方の場合ですが、こちらは気を付けないと途中で気力が途切れて、完成を見ないで終わる作品が続出するおそれがあります。1枚の作品を描き上げていくためには、その絵の主題(モチーフ)に対する情熱をそれなりに持続させていく必要があります。プロの画家の精神力はたいしたもので、壁画のような大きな絵の場合、軽く1年以上かけて完成させています。しかし、我々アマチュアは、絵とは別に学校や職場という本来の活動の場を持っていますから、絵画制作に対する集中力が往々にして途切れやすい環境にあります。気力が途切れると、その絵の完成に向けた情熱が失われ「また暫くしてから描こう」という気持ちになって、制作過程の絵は永遠に完成を見ることなく封印されるおそれがあります。
そうならないためには、情熱を失わないよう精神を鍛えるか、最初の制作時に長めの時間を取り、1日目で必ず下塗りまで持っていくといった進行管理が必要になります。描こうと思い立ったその瞬間が、その絵に対するエネルギーが一番充実しているときです。それを絵の完成まで持続していけるだけの精神力があればそれでいいわけですが、ないとすると、初日の作業が重要になります。1日目で全体の構図設定と大まかな色の割り当てさえ終われば、ある程度完成時の姿が見えてきますから、あとは時間をかけて細部の描き込みをしていくだけで、途中棄権の可能性は少なくなります。逆に、完成の姿が全く見えない状態で一旦筆を置いてしまうと、後日筆を取り直したときに、完成時のイメージが呼び起こせなかったり、方向性に迷いが生じたりすることがあります。一番危険なのは、夜中の12時頃に突然思い立って30分だけ下線入れをして、その後忙しくて1週間ほど放っておくといったようなパターンです。寝かせておくうちに絵の構想が熟成されていくこともありますが、そのときには最初に描いた下線が、最新の構想に沿わなくなっていることも多く、描き直しが必要になったりします。
パソコン上で絵を制作する際、Paint Shop Pro のようなお絵描きソフト(2DCG)を使うのと、3Dのコンピューター・グラフィック・ソフト(3DCG)を使うのと、2つのやり方があります。この2つはどう違うのでしょうか。
私は、3DCGソフトについては専門家ではありませんし、まじめに取り組んでおられる方の足元にも及ばない程度の技量しか持ち合わせておりませんが、物見遊山で、試しに使ってみたことはあります。そのときの感想を中心に、幾つか違いを書いておきます。
まず、制作方法が決定的に違います。いくら各種の機能が付いているとはいえ、2Dのお絵描きソフトは、手を使って絵を「描いている」という感覚です。一方、3DCGの場合、絵を「描く」のはソフトそれ自体であって、人間の側は、コンピューターが絵を描く際の対象となる立体を作ってやるという感じになります。たとえて言えば、モデルさんを指定してやって「こっちの角度からこうやって描いてみて」と、コンピューターに指示している感じですね。小学校の図工の授業で言えば、普通に絵を描くのが2DCGで、針金や粘土で工作をやって完成したものを写真に撮るのが3DCG、という感覚でしょうか。従って、絵を描くのは大の苦手だったが工作には自信があったという方なら、3DCGの方が性に合うかもしれませんね。また、子供の頃プラモデル作りや粘土細工が無性に好きだったという方にもお勧めです。
もう1つ違うのは、完成した時の質感でしょうか。写真のようなリアルな質感を追求している方は別かもしれませんが、やはり2DCGには手作りの暖かい趣きがあります。他方、3DCGは、本物と寸分違わないリアルな質感が売りで、誰でも写真のような驚異的な描写を得ることが出来ます。しかし、3DCGに手描きのぬくもりみたいな雰囲気を盛り込むのは、中々難しいと思います。参考までに、下に私が3DCGで試しに作成した風景画を1枚掲載しておきます。これを、このホームページに掲載している私の絵と比べれば、質感の違いがはっきり分かって頂けると思います。写真のようなリアルな質感を追求するのか、手作りの暖かさを重視するのか、最終的には好みの問題ということになるのでしょうか。
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