まず、手軽ということでしょうか。これは、最初に画材(パソコン絵画の場合ならソフト、周辺機器)をそろえるのが簡単という点と、実際に描くのが手軽という2点があります。
では、機材の購入からいきましょう。油絵や水彩画だったら、まず何をそろえるべきかを考えるところで苦しんだりします。画材店に行けば初心者用の入門セットも売っていますが、その豪華さによってセットに何段階かあったりしますし、別途キャンバスや紙、イーゼルなども必要になってきます。誰のアドバイスも受けずに一人でいきなり画材を購入するには、やや勇気がいりますし、どうしていいか分からない方も多いと思います。また、絵を描き進んでいくと、道具が入門セットだけでは足りないことにすぐに気付くことでしょう。筆、絵具のほか、油絵ならオイル類も最初にそろえたものだけでは不自由を覚えるようになります。
パソコン絵画は、お絵描きソフトとタブレット(ペン型入力装置)の2つ、更に描いた絵を紙に打出す場合には、これにプリンターがあれば、ほぼ全てこと足ります。ソフトの種類は色々ありますが、絵を描く上での基本機能は同じようなものなので、ソフトの選択ミスが致命傷につながるようなことはないと思います。また、無料ソフトにも市販ソフトに負けない機能を持っているものがありますから、そうしたものを使って、まずは試しに始めてみるということも出来ます。従って、始めるに当たって道具も余り迷う必要はありませんし、上達していく過程で絵具や筆を買い足す必要がありません。キャンバスも水彩画紙も消費しませんから、初期投資だけでずっと描き続けられます。
もう1つの手軽さは、絵を描く準備がほとんど必要ないということです。油絵や水彩画の場合、家にアトリエを持っていない限り、描き始めるのにそれなりの準備時間が必要になります。絵具箱を開いて、絵具や筆を出し、イーゼルをセットしてキャンバスを立てかけたりしていると、最低でも15分はかかります。日本画に至っては、準備をするだけで疲れてしまいます。しかし、パソコン絵画なら至って簡単。パソコンを立ち上げればよいだけです。それと同時に片付けも簡単。油絵の後片付けは、紙パレットを使っていてもなかなか面倒です。パソコンなら画像を保存して終了ボタンを押すだけです。例えば、平日の深夜に家に帰ってから30分だけ絵を描くことも、パソコン絵画なら可能です。
手軽さ以外のメリットとしては、場所をとらず家族に迷惑をかけないということが挙げられます。私の経験では、油絵や水彩画は小さい作品でも描くにのにそれなりのスペースが要ります。このスペースとは、単なる空間という意味だけでなく、描いている間、家族が立ち入りを禁止される区域を意味します。油絵を描いている横を子供がうろちょろすると、誤って子供がキャンバスに接触して服に油絵具がつかないかとか(洗濯しても落ちません)、筆洗い用のバケツ(汚れた油がどっぷり入っている)をひっくり返して絨毯を台無しにしないかとか、いろいろな心配が生じて、のんびり絵を描いている場合ではなくなります。
もう1つ家族との関係で言えば、パソコン絵画は臭いがしないという点も挙げられます。油絵具や各種オイルの臭いは、油絵中毒になると心地よいものがありますが、一般人からすれば異臭です。日本画の膠を煮る臭いに至っては、趣味でやってる私自身もやや胸が悪くものがあります。アクリル画も、近づくとアクリル・ポリマー独特の臭いがします。パソコンは一切そうした臭いがありません。
実際、絵を描くうえでも、パソコン絵画は注目すべき特技を持っています。一度使った色を簡単に何度でも再現できるという点です。これは、他の画材に比べて圧倒的に優れている点だと思います。絵画の世界でよく言われるのは、自分で混ぜて作った色は2度と同じ色が作れないということです。普通に絵を描いている人なら、前に描いたのと同じ色を作ろうとして悶々と絵具と格闘した経験がおありだと思います。だから、なるべく色を混ぜなくて良いように、沢山の色の絵具を買い込むわけです。一度塗った色と同じ色を作れないとなると、描いた翌日に同じ色を使っている部分を描き足したり修正したり出来なくなりますから、深刻な事態が生じます。とくに微妙な色調を使っている場合は致命傷です。パソコン絵画の場合は、全く同じ色を何度でも再現できますから、同じ色の個所を毎日10分ずつ、3日間に分けて描くことも可能です。これは、他の画材から見れば驚異的なことです。
他にもいろいろ利点はありますが、最後にもう1つ挙げておけば、絵の初心者にとって、ソフトが大いなる救いの手を差し伸べてくれるという利点があります。もう少し詳しく言えば、1つは簡単に描き直しがきくということ、もう1つはソフトの各種機能が技術不足を助けてくれるということです。
「元に戻す」という機能で前の状態に戻れますから、何度も試し描きをしたり、失敗を直したり出来ます。通常の絵の場合、油絵や厚塗りの日本画の場合は多少の修正はききますが、水彩画、水墨画などは修正がききません。つまり、いつも決定的な色を間違いない位置に塗っていく必要があります。一筆の間違いで絵が台無しになったりします。パソコン絵画には、こうした心配をする必要がありません。緊張感なく気軽に描いて、失敗したら簡単に修正できます。
もう1つパソコン絵画が初心者にやさしい点を挙げると、ソフトの各種機能が技術不足を助けてくれるという点です。通常の絵の場合は筆1本の勝負ですから、各種の表現を自分なりに学び練習する必要が出て来ます。パソコン絵画では、ソフトがこの部分を助けてくれる場合があります。例えば、空に浮かぶ雲のフワッとした感じを油絵でキャンバスに描こうとすると、それなりの練習が必要になりますが、パソコン絵画ならエアブラシの機能を使って、初心者でも比較的簡単にできます。また、テクスチャーなどを上手く利用することによって、人物画の背景を簡単に作ったりすることも可能です。一旦、油絵や水彩画をやっている人がパソコン絵画を始めた場合は、余りこの点にありがたみはないかもしれませんが、本格的に絵を描くのはパソコン絵画が初めてという人にとっては、頼りになる存在だと思います。
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