まず、はじめに





 パソコン絵画って何?

 パソコン絵画というのは、私が勝手に付けた名前です。簡単に言えば、このホームページに掲載されている絵のように、お絵描き用ソフトウェア(ペイント・ソフトやドロー・ソフト)を使ってパソコン上で描く、風景画、人物画、静物画などを指しています。使うソフトウェアは、私が使っている Paint Shop Pro のような市販ソフトである必要はなく、Windows 付属の「ペイント」でも、無料で配布されているお絵描きソフトでも何でもいいわけです。

 もう少し言えば、そうしてパソコンで描いた絵を、プリンターで紙に打出して額に飾ってこそ、真のパソコン絵画と言えるような気がしますが、まぁそこは各人の自由です。

 私が作画に使っているPaint Shop Pro などの市販ソフトは、実際には写真のレタッチやホームページ素材作りに使われている例が多く 、ソフト自身もそれを意識した作りになっていますし、市販の解説書もそうした機能を中心に解説してあるようです。従って、自分の楽しみで絵を描くのにこういうソフトを使っている人は少数派ではないかと思います。また、パソコン上で絵を描く人でも、多くの場合は簡単なイラスト止まりのものが多いのではないでしょうか。

 確かにこの種のソフトはイラストを描くのに適しているような気がしますが、私はもう少し絵画に近づけて、油絵や水彩を描くのと同じようにパソコンを使って風景画、人物画、静物画などを描いてみることをお勧めします。つまり、油絵具や水彩絵具と同じようなレベルで、パソコンも1つの画材だと割切って使うということです。

 本格的に油絵や水彩を趣味にしている人からすれば、「パソコンで絵を描くなんて、ちょっとお遊びみたいな話だなぁ」と思われるかもしれません。しかし、油絵から日本画まで色々な画材に手を出したことのある私の目から見て、お絵描きソフトだって立派な画材ではないかと思いますし、他の画材に比べても有利な点が幾つかあります。

 どうでしょうか。ここまで読んで、ちょっと興味が湧いてきたら、もう少し私の話に付き合ってください。

(注) 絵やイラストを描くために使われているソフトには、大きく分けて「ペイント・ソフト」と「ドローソフト」の2つがありますが、このコーナーでは、マウスやタブレットを使って普通に鉛筆や筆で描くようにして絵を描くことの出来る「ペイント・ソフト」を念頭に置いて、話を進めることにします。なお、「ペイント・ソフト」と「ドローソフト」の違いについては、「4.パソコン絵画に関してよく尋ねられる質問と私なりの答(Q&A)」のこのQ&Aをご参照下さい。


 

 パソコン絵画の良いところ、悪いところ

 油絵、水彩画、日本画などの各種の画材に、それぞれ良いところ、悪いところがあるように、パソコン絵画にも他の画材に比べて優れている点、劣っている点があります。私なりに感じたままを以下に書いてみましょう。


良いところ

 まず、手軽ということでしょうか。これは、最初に画材(パソコン絵画の場合ならソフト、周辺機器)をそろえるのが簡単という点と、実際に描くのが手軽という2点があります。

 では、機材の購入からいきましょう。油絵や水彩画だったら、まず何をそろえるべきかを考えるところで苦しんだりします。画材店に行けば初心者用の入門セットも売っていますが、その豪華さによってセットに何段階かあったりしますし、別途キャンバスや紙、イーゼルなども必要になってきます。誰のアドバイスも受けずに一人でいきなり画材を購入するには、やや勇気がいりますし、どうしていいか分からない方も多いと思います。また、絵を描き進んでいくと、道具が入門セットだけでは足りないことにすぐに気付くことでしょう。筆、絵具のほか、油絵ならオイル類も最初にそろえたものだけでは不自由を覚えるようになります。

 パソコン絵画は、お絵描きソフトとタブレット(ペン型入力装置)の2つ、更に描いた絵を紙に打出す場合には、これにプリンターがあれば、ほぼ全てこと足ります。ソフトの種類は色々ありますが、絵を描く上での基本機能は同じようなものなので、ソフトの選択ミスが致命傷につながるようなことはないと思います。また、無料ソフトにも市販ソフトに負けない機能を持っているものがありますから、そうしたものを使って、まずは試しに始めてみるということも出来ます。従って、始めるに当たって道具も余り迷う必要はありませんし、上達していく過程で絵具や筆を買い足す必要がありません。キャンバスも水彩画紙も消費しませんから、初期投資だけでずっと描き続けられます。

 もう1つの手軽さは、絵を描く準備がほとんど必要ないということです。油絵や水彩画の場合、家にアトリエを持っていない限り、描き始めるのにそれなりの準備時間が必要になります。絵具箱を開いて、絵具や筆を出し、イーゼルをセットしてキャンバスを立てかけたりしていると、最低でも15分はかかります。日本画に至っては、準備をするだけで疲れてしまいます。しかし、パソコン絵画なら至って簡単。パソコンを立ち上げればよいだけです。それと同時に片付けも簡単。油絵の後片付けは、紙パレットを使っていてもなかなか面倒です。パソコンなら画像を保存して終了ボタンを押すだけです。例えば、平日の深夜に家に帰ってから30分だけ絵を描くことも、パソコン絵画なら可能です。

 手軽さ以外のメリットとしては、場所をとらず家族に迷惑をかけないということが挙げられます。私の経験では、油絵や水彩画は小さい作品でも描くにのにそれなりのスペースが要ります。このスペースとは、単なる空間という意味だけでなく、描いている間、家族が立ち入りを禁止される区域を意味します。油絵を描いている横を子供がうろちょろすると、誤って子供がキャンバスに接触して服に油絵具がつかないかとか(洗濯しても落ちません)、筆洗い用のバケツ(汚れた油がどっぷり入っている)をひっくり返して絨毯を台無しにしないかとか、いろいろな心配が生じて、のんびり絵を描いている場合ではなくなります。

 もう1つ家族との関係で言えば、パソコン絵画は臭いがしないという点も挙げられます。油絵具や各種オイルの臭いは、油絵中毒になると心地よいものがありますが、一般人からすれば異臭です。日本画の膠を煮る臭いに至っては、趣味でやってる私自身もやや胸が悪くものがあります。アクリル画も、近づくとアクリル・ポリマー独特の臭いがします。パソコンは一切そうした臭いがありません。

 実際、絵を描くうえでも、パソコン絵画は注目すべき特技を持っています。一度使った色を簡単に何度でも再現できるという点です。これは、他の画材に比べて圧倒的に優れている点だと思います。絵画の世界でよく言われるのは、自分で混ぜて作った色は2度と同じ色が作れないということです。普通に絵を描いている人なら、前に描いたのと同じ色を作ろうとして悶々と絵具と格闘した経験がおありだと思います。だから、なるべく色を混ぜなくて良いように、沢山の色の絵具を買い込むわけです。一度塗った色と同じ色を作れないとなると、描いた翌日に同じ色を使っている部分を描き足したり修正したり出来なくなりますから、深刻な事態が生じます。とくに微妙な色調を使っている場合は致命傷です。パソコン絵画の場合は、全く同じ色を何度でも再現できますから、同じ色の個所を毎日10分ずつ、3日間に分けて描くことも可能です。これは、他の画材から見れば驚異的なことです。

 他にもいろいろ利点はありますが、最後にもう1つ挙げておけば、絵の初心者にとって、ソフトが大いなる救いの手を差し伸べてくれるという利点があります。もう少し詳しく言えば、1つは簡単に描き直しがきくということ、もう1つはソフトの各種機能が技術不足を助けてくれるということです。

 「元に戻す」という機能で前の状態に戻れますから、何度も試し描きをしたり、失敗を直したり出来ます。通常の絵の場合、油絵や厚塗りの日本画の場合は多少の修正はききますが、水彩画、水墨画などは修正がききません。つまり、いつも決定的な色を間違いない位置に塗っていく必要があります。一筆の間違いで絵が台無しになったりします。パソコン絵画には、こうした心配をする必要がありません。緊張感なく気軽に描いて、失敗したら簡単に修正できます。

 もう1つパソコン絵画が初心者にやさしい点を挙げると、ソフトの各種機能が技術不足を助けてくれるという点です。通常の絵の場合は筆1本の勝負ですから、各種の表現を自分なりに学び練習する必要が出て来ます。パソコン絵画では、ソフトがこの部分を助けてくれる場合があります。例えば、空に浮かぶ雲のフワッとした感じを油絵でキャンバスに描こうとすると、それなりの練習が必要になりますが、パソコン絵画ならエアブラシの機能を使って、初心者でも比較的簡単にできます。また、テクスチャーなどを上手く利用することによって、人物画の背景を簡単に作ったりすることも可能です。一旦、油絵や水彩画をやっている人がパソコン絵画を始めた場合は、余りこの点にありがたみはないかもしれませんが、本格的に絵を描くのはパソコン絵画が初めてという人にとっては、頼りになる存在だと思います。


悪いところ

 便利づくめのようなパソコン絵画ですが、もちろん欠点もあります。私が感じたことを幾つか挙げておきましょう。

 まず、普通に絵を描くのと違って、筆先から線や色が出てくるわけではないため、多少の感覚の馴れが必要です。パソコン絵画は普通に絵を描くのと違って、手元ではなく画面を見ながら筆を運びます。手元を見ながら絵を描く習慣が身についている我々にとっては変な感じがします。

 次に、絵全体を見渡しながら絵を描くわけにはいかない場合があるということです。これは、描いている途中のパソコン絵画は、パソコンのモニター画面上からしか見ることが出来ないという制約のためです。もちろんパソコン画面上で絵の拡大縮小は可能ですから、絵の大きさ如何にかかわらず、絵全体を見ることは常に可能です。しかし、例えばある部分に細かい描き込みをしようとすると、その部分を拡大して描かなければならず、絵全体が見えなくなります。普通の絵の場合には、幾ら細部を描こうが全体は見えていますから、バランスなど簡単に分かりますが、パソコン絵画の場合にはそこが少し不便です。

 もう1つ困るのが、絵の大きさです。パソコン絵画をモニター画面上のみで楽しむ分には何も問題ないのですが、良い作品が出来たので紙に打ち出そうとすると、プリンターで扱える紙の制約が出て来ます。家庭用プリンターでは、通常A4(29.4センチ×21センチ)までが打出しの限界です。これは、キャンバスで言えばF4号(33.3センチ×24.2センチ)よりも小さなサイズで、水彩額なら「八切り」(24.2センチ×30.3センチ)にマットを入れて飾る仕様になります。要するに小品しか制作出来ないわけで、大作指向の人には向きません。

 あと、技術的なことを言えば、パソコン絵画は、タブレットというペン型入力装置で描くわけですが、本物の筆ではないため、穂先を使った微妙な表現には向いていません。また、絵具が持つ独特の表現、例えば水彩の場合の水と絵具の絡み合いや、油絵具のボリューム感は出ません。日本画、水墨画で言えば、破墨法、發墨法的な伝統技法は使えません。しかし、これは、どの画材にもくせや得手不得手があるので、ひとりパソコン絵画のみが劣っているとは言えないような気もします。日本画には日本画の技法があるように、パソコン絵画ではパソコン絵画らしい技法を確立するということではないでしょうか。

 

 さて、ここまで読んできて、どうでしょうか。自分もやってみようかなと思われた方は、下の「次のページに進む」をクリックして、先に進んで下さい。



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