Q | パソコン雑誌の記事やパソコン・ショップの店頭で、「ペイント・ソフト」「ドロー・ソフト」「レタッチ・ソフト」など様々な表記を見かけます。これらは違うものなのですか。また、パソコンで絵を描くには、どれを選べばいいのでしょうか。 |
A | 「ペイント」「ドロー」「レタッチ」という機能はそれぞれ異なったものですが、ソフトウェアの説明で「ペイント・ソフト」「ドロー・ソフト」「レタッチ・ソフト」と言うときには、どの機能に重きを置いて開発されたソフトかを示していることが多いようです。従って、「ペイント・ソフト」と称するソフトでも、「ペイント機能」だけでなく「ドロー機能」や「レタッチ機能」も同時に持っていることが多々あります。要するに、そのソフトの得意種目は何かという感じですね。 「ペイント」「ドロー」「レタッチ」という機能の違いについてですが、まず「レタッチ(retouch)」から説明しましょう。これは文字通り、「再度(re)手を加える(touch)」あるいは「修正する」という機能で、デジタルカメラで取った写真の補整が代表例です。例えば、一旦撮った写真の露出や色バランスを直したり、目が赤く撮れてしまったのを修正したりするのを「レタッチ」あるいは「フォト・レタッチ」と呼んでいます。従って、これは純粋なお絵描きのための機能ではありません(勿論、一旦描いた絵の色バランスを直したりするのも広い意味では「レタッチ」ですが…)。 次に、「ペイント」と「ドロー」ですが、これらはいずれもパソコンで線を引いたり色を塗ったりする機能で、まさにお絵描きに関する機能です。両者の違いを極めて簡単に言えば、一本の線を引くときに、あなたが手書きで線を引かなければならないのが「ペイント」で、線の始点と終点をクリックして指定するとコンピューターが勝手に線を引いてくれるのが「ドロー」です。 もう少し詳しく説明しましょう。「ペイント」機能を使って線を引く場合、マウスやタブレットの入力ペンが通った跡に沿って、パソコン画面上に無数に並んでいる「ピクセル」というごく小さな正方形の色が変わっていきます。例えば、何も描いていない白い画面では、全てのピクセルは白ですが、ここに黒で線を引くと、マウスやタブレットの入力ペンが触れたピクセルの色は白から黒に変わります。これで黒い線が引けるわけです。こういうふうな描き方を「ラスタ・グラフィック」と言ったりします。 他方、「ドロー」機能で線を引くと、マウスでクリックした始点と終点の座標軸の間をパソコンが計算して一気に線を引きます。こうして引かれた線は、長さや幅を事後に調整できるほか、線上の幾つかの点(「アンカーポイント」と呼ばれます)でハンドル操作することによって、形状そのものを変形させることが出来ます。こういうふうな描き方を「ベクタ・グラフィック」と言ったりします。 この2つの線の引き方は、それぞれ一長一短があります。まず、「ペイント」機能で線を引く場合、ごく細い線を斜めに引くとピクセルの加減でギザギザ感が出たり、一旦描いたものを拡大すると境界線がゴツゴツした感じになります。また、手書きなので、ゆがみのない曲線やシャープな直線を引くのは中々難しいものがあります。全くゆがみのない完全な円を手書きで描く苦労を考えれば、この辺りの感覚が分かると思います。しかし、「ドロー」機能では、パソコンが計算して線や形を作ってくれますから、かっちりとした正確な形状が作れますし、拡大してもパソコンが自動的に計算し直すので、境界部分のシャープさが失われません。 他方、「ドロー」機能では、円や三角形、直線といった単純な形状は簡単かつ正確に描けますが、山や森の複雑な稜線や人の顔の微妙な輪郭線を正確に描くのは、相当苦労すると思います。「ペイント」機能では、手書きした通りに線が引けますから、複雑な形をした線も、筆さばき次第で思いのままということになります。 では、「ペイント」と「ドロー」では、どちらがお絵描きに向いているのでしょうか。結論を言えば「ペイント」ということになります。あなたが、油絵や水彩画を描くときと同じ感覚で絵を描きたいということなら、私は「ペイント」機能の高いソフトをお勧めします。他方、商業デザインや、シャープで滑らかな線を生かしたイラストレーションを目指すのであればドロー機能の方が重宝だと思います。 ただ、冒頭に言いましたように、「ペイント・ソフト」と称するソフトでも、同時に「レタッチ」機能や「ドロー」機能を持っているものがあります。こうしたソフトでは、レイヤーを使い分けることで、1つの画面で「ペイント」機能で手書きした線と「ドロー」機能でコンピューターが引いた線を並存させられますし、「ドロー」機能を使って作った滑らかな図形を、「ペイント」と同じピクセル単位のものに変換させて、「ペイント」機能を使って手を加えることも出来ます。 なお、この「パソコン絵画のすすめ」は、基本的に「ペイント」機能を使って絵を描くことを念頭において解説しています。 |