遥かな時を越えて



 

 

解説

  どこか南洋の植民地時代の建物のように見えますが、これは東京都内にある旧岩崎邸です。旧岩崎邸は、旧三菱財閥の三代目当主岩崎久彌の別邸として明治29年に建てられたもので、現在は「旧岩崎邸庭園」として一般公開されています。
 普通は南洋と聞くと、燦々と降り注ぐ太陽と浜辺とやしの木、そして素朴に暮らす原住民達といったイメージが湧き上がる方が多いのでしょうが、私は小説家の中島敦を思い浮かべてしまいます。中島敦には喘息の持病があり、昭和16年に教師の職を辞し、転地療養も兼ねて、パラオにあった「南洋庁」に官吏として赴任しています。そして、南洋を舞台にした作品を幾つも発表しているのですが、「李陵」「山月記」といった中国古典ものの作品に比べれば、あまり一般には知られていません。私は高校生の頃、中島敦の小説が比較的好きで、学校の図書館にあった全集のようなものを通読したのですが、そこでこの南洋を舞台にした幾つかの作品に出会いました。
 旧岩崎邸を最初に見たとき、長らく忘れていたこの中島敦の小説を思い出し、ちょっと懐かしい思いに駆られました。中島敦が赴任したという南洋庁の本当の姿は知りませんが、その言葉から湧き上がるイメージと、この旧岩崎邸の外観が重なって見えたのです。絵の題名も、そんな経緯で付けたものです。

 

参考データ 

 ホームページ掲載:2005.2  使用ソフト:Paint Shop Pro 9J  タブレット:Wacom Intuos  原画サイズ:1035×795ピクセル


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