Q | パソコンで絵を描くと、アクリル画や油絵ふうにはかけるのですが、水彩画や日本画・水墨画のような雰囲気は出せません。何かコツのようなものはあるのでしょうか。 |
A | 現代絵画の世界では、時として日本画と油絵の区別が、一見しただけではつきにくくなっています。また、アクリル絵具を使って、油絵とそっくりな作品や、日本画と見分けがつかない作品も描けたりしますから、「○○画風」という概念もあいまいになっているような気もします。まぁ、そうは言っても、「水彩画風」や「日本画・水墨画風」と言ったときに、イメージは何となく分かるので、典型的な「水彩画風」や「日本画・水墨画風」ということでお話ししましょう。 @ 「水彩画風」について 水彩画というのは、「透明水彩」と「不透明水彩・グァッシュ」(不透明水彩とグァッシュは厳密には違いますがここでは同じに取扱います)に大きく分かれます。普通にパソコン上で色を塗ると、「不透明水彩・グァッシュ」と同じようにのっぺりとした感じで色が塗れますが、皆さんの意図しているのは、「透明水彩」のような雰囲気が出したいということかと思います。では、「透明水彩」と「不透明水彩・グァッシュ」とは、元々何が違うのでしょうか。実は絵具の原料は基本的に同じで、「顔料(色の付いた砂)」と「アラビアガム(水溶性の透明な接着剤)」が混ぜてあるだけです。しかし、「透明水彩」と「不透明水彩・グァッシュ」とではその混合比率が違っていて、「透明水彩」では「顔料」に比べて「アラビアガム」の比率が高くなっています。また、「顔料」の粒子も、「透明水彩」の方が小さくなっています。従って、「不透明水彩・グァッシュ」を紙に塗ると「顔料」の粒子が紙を完全に覆うのに対して、「透明水彩」を紙に塗ったときには、「顔料」の粒の間から紙の下地が透けて見えます。これが、透明感をかもし出しているわけです。 そうであれば、パソコン絵画においても同じようにしてやればよいわけです。そのためには、使っているお絵描きソフトが、塗りの密度を変えられるものでなければなりません。塗りの密度を下げ、薄めの色使いで描けば、下地の色が透けて見えて、何となく「水彩画」風になります。但し、水彩画が持つ水のにじみ感は、そうした特殊効果を出せるソフトでないと出しづらいところがあります。もっとも、これも努力次第・工夫次第のところがあるので、色々試してみて下さい。 A 「日本画風」について 次に「日本画風」です。私が考えるに、これはソフトの使い方以前に、画題の選び方や構図の取り方といったところにポイントがあると思います。例えば、花1つ取っても、伝統的な日本画では、余白(つまり空間)の取り方が油絵とは違いますし、花の置き方、色使いも独特なものがあります。こういう点は、プロの日本画家の作品を展覧会で見たり、画集を見たりすれば何となく分かると思います。ちなみに、私のパソコン絵画は日本画風だという感想をよく戴きますが、これは意図してそうしているわけではなく、以前日本画を描いていたので、そのモード(画題の選び方、構図の取り方、色の使い方)を今に引きずっているだけです。 実際の描き方についてですが、現在の岩絵具を圧塗りするタイプの日本画の風合いを意図しているのであれば、画題の選び方、構図の取り方、色の使い方さえ似せれば、充分日本画らしく見えます。 問題は、戦前の、線を重視した薄塗りの日本画で、これは一朝一夕にはマネできないと思います。まず、ペンではなく毛筆で引かれた優美な線をパソコン上で再現するのは容易ではありません。タブレット(ペン型入力装置)を使っておられる方なら、筆圧に応じて線の太さを変えられるソフトが廉価版でもありますから、筆圧感知に設定してエアブラシを使って描くと、一本調子でない線を引けますが、筆圧と線の太さの相関関係を会得して自由に操れるようになるのには、相応の練習が必要です。昔、日本画を勉強する画学生は、最初の1年、毎日墨で線を引く練習ばかりしていたと聞いたことがありますから(ホンマかいな?)、あなたがそれをパソコン絵画で簡単にマネするのは無理というものです。上村松園のような優美な線を引きたかったら、まずは練習して下さい。 もう1つ難しいのは色合いで、薄めのドーサ(にじみ止め)を引いた絹の上に広がる絵具の柔らかいぼかしやにじみをパソコン絵画で再現するのは、たとえエアブラシを使っても、中々むずかしいと思います。エアブラシの透明度を変えながら色々実験し、ノウハウを習得していくしかないでしょう。 B 「水墨画風」について 最後の難題は「水墨画風」です。水墨画には、墨で線を描いたうえに薄墨や顔彩で調子を付けたもの(後者は「墨彩画」と呼ばれています)や、線描きなしで墨の濃淡を使いながら描いたものなど様々なものがあります。 まず、「南宋画(南画)」に見られるような、独特の山や木、岩の描き方は、「芥子園画伝」など一応お手本があって、皆それを学びながら自分なりに発展させています。従って、パソコンで描くにせよ、そういうお手本(「芥子園画伝」ではなく「水墨画の描き方」といった類の教本)をひと通り読んで練習してみると、一気に水墨画らしい表現方法が習得出来ます。なお、墨で描いた線の再現の仕方については、上でも述べましたので繰り返しません。 あとは、墨と水と紙とが織り成す独特の雰囲気(にじみやぼかしなど)についてですが、これをパソコン絵画で忠実に再現するのは中々難しいですね。墨というごくシンプルな素材が持つ奥深さというのが、ソフトのうえでは中々うまく出せません。基本はエアブラシの透明度を変えながら色々実験し、自分なりにノウハウを習得するということだと思います。 参考までに、水墨調で線を描いたうえに、薄墨で調子を付けた感じのものと、顔彩で調子を付けた感じもの(いわゆる墨彩画調)を以下に掲げておきます。ともに制作時間10分程度の簡単なもの(手抜きでスミマセン)ですが、墨彩画調に描いたものは、横に簡単な挨拶文を書くと「絵手紙」のように使えますし、俳句を書いて「俳画」のような感じにすることも出来ます。皆さんもこの分野を練習すると、お手軽で味のあるパソコン絵画を描けるようになりますよ。 |
家にあったポンカンをお手本に描いたもの。主線は、密度を下げたエアブラシを筆圧感知なしで使って、一本調子に描いています。両方とも、主線はコピーして使っており、色の塗りだけが違っています。 |